文・写真:水本アキラ
数多くの窯元が集まっている砥部町の中心地から、さらに車で20分ほど山道を行く。緑のトンネルをいくつも抜けて、中田窯に到着した。2005年の町村合併前まで広田村と呼ばれていたが、一年間をとおして、比較的温暖な愛媛のなかで、冬場には積雪の多いところとして知られている。この山深く静かな場所にある工房で、中田正隆さんはご家族やスタッフと共に器を作り続けてきた。
伝統を知り、つなぎ、発展させていく器。
中田さんが梅野製陶所(梅山窯)で働き始めたのは19歳のとき。梅野製陶所は明治15年(1882年)の開窯で、現存する砥部焼最古の窯元だ。中田さんが門を叩いた頃は、砥部焼の代表的意匠「唐草模様」を生み出した工藤省治、沢田じゅん、岩橋節夫といった若き才能が、柳宗悦の一番弟子である鈴木繁男らの指導のもと、新しい時代を切り開こうと邁進していた時代だった。中田さんも鈴木さんが来砥した折、宿泊していた旅館へ足繁く通って、さまざまな興味深い話を聞かせてもらった。そして、名古屋で釉薬の研究を1年、インドで3年間製陶を指導したあと、1974年に中田窯として独立を果たした。
町内外に90近い窯元があり、トレードマークになった厚手の白磁に呉須(藍色)や紅で絵付けされた器だけでなく、さまざまなデザインやカラフルな色の砥部焼が登場している。しかし、中田窯の器は使いやすく、頑丈で、長く使っても飽きさせない美しさ───いわゆる「用の美」への深いこだわりを感じさせる。
BRIDGEでも中田窯の器は人気の商品だ。オーナーの加奈子さんが仕入れてきたそばから、飛ぶように売れていく。今回、彼女の買付に同行し、BRIDGEと中田窯とのつながり、印象深いエピソードなどを聞いてみた。
───加奈子さんが中田窯を知ったきっかけは?
12年ぐらい前ですが、まだわたしが会社勤めをしていた頃、松山市駅の裏道に「ROSA」さんがオープンして、細十草の蕎麦猪口を購入したのがきっかけです。
前職(le.japon ※現在は閉店)の影響で、それまでは現代作家の器ばかり追いかけていたんですが、自分の地元にこれだけ魅力的な器があったことに、今までどうして気がつかなかったんだろうって……ちょっと悔しかったです(笑)。
───中田窯の器の特徴や魅力を教えてください。
すこし艶を消した、独特な肌の雰囲気が大きな特徴ですね。中には骨董と見間違える方がいらっしゃるくらい(笑)。古典の柄がモチーフになっている絵柄も多くて、中田さんが産み出した自然な美しさ、柔らかさが器にあらわれているように感じます。
あと、中田さんは探究心がすごくて、新しい図柄が次々とできるんですよ。でも、新しさのなかに不思議と懐かしい雰囲気や味を感じます。そういうところに中田窯のファンは心惹かれているんじゃないでしょうか。もちろん気軽に日常使いできる手の届きやすい価格も魅力です。中田さんのようにたしかな技術を持った方が作った美しい器を、普段の生活で使えるというのはうれしくなります。
───仕入れではどういう基準でセレクトしてますか?
まず自分が使ってみたいかどうか、それとお客さまが手に取りやすく、日常の食卓に並べやすいかどうかも考えます。ただ、仕入れの時はある程度、量が必要なので、あまり考え込まずに直感で判断しています。
───加奈子さん個人の好みと、お客様が好むテイストに違いはあります?
わたしは中田さんの描く染付の、素朴な草花の図案が好きです。自宅で使う器は比較的、渋めな柄が多いですね。お店では中田さん独特の釉裏紅や加彩されたもの───いわゆる一般的な砥部焼のイメージと違う雰囲気がある器が人気です。
───中田さんご夫妻とは長いおつきあいになると思います。印象深いエピソードって何かありますか?
BRIDGEをオープンする前、取引のお願いをするために電話をかけたときはすごく緊張しました。そして、お店にお邪魔するアポイントメントを取った日は、ちょうど台風が近づいていてひどい雨模様だったんです。ひとり車を走らせながら、くねくね道から見た空の様子をはっきり覚えています。
到着すると、中田さんご夫婦だけでなく、その頃まだ窯を手伝っていらっしゃった息子さんご夫婦、あと中田家の愛犬(柴犬)が勢揃いでした。何者かもわからないような若いわたしをみなさん優しく出迎えてくださいましたね。
砥部焼の歴史や、さまざまな興味深いお話をたくさん教えてくださったこと───今でもすごく感謝しています。また奥様(直子さん)がわたしと同じ道後出身だったのも、なんだかとても嬉しかったです。
中田窯
愛媛県伊予郡砥部町総津159-2
営業時間 9:00~16:00(不定休)
電話番号 089-969-2077
※窯元では通販はしていません
http://www.nakatagama.com/
中田窯 6寸玉縁丼鉢
中田窯の人気の柄(すずらん)が描かれた丼鉢です。ころんと丸みのある形は麺類はもちろん、煮物、たっぷりの和物にも使いやすいサイズです。